出張先で講演や提案がある日、新幹線に乗った途端にノートパソコンを開いて、スライドを直し始めてしまう——。そんな経験はないでしょうか。結論からお伝えすると、移動時間は資料を「直す」時間ではなく、「通す」時間として使うほうが、本番はうまくいきます。資料は出発前に締めておき、車内では「聞き手の目で一度通して見る」「話の流れを耳で確かめる」「到着前は資料を閉じる」の3つだけを行う。この記事では、私たちTylorが撮影や打ち合わせで各地へ移動するなかでたどり着いた、移動時間の使い方とその考え方をまとめます。
実務でよくある困りごと——車内で直すほど、資料が落ち着かなくなる
移動時間は、まとまった作業ができる貴重な時間に見えます。2時間あればスライドの見直しくらいはできそうですし、前日に終わらなかった細かな修正も片づけてしまいたくなります。
ところが実際には、車内での修正はなかなか思うように進みません。テーブルは小さく、車両は揺れ、トンネルに入るたびに通信が途切れます。共有フォルダの最新版を開いたつもりが、一つ前の版を直していた、ということも起こります。隣の席が近いので、社外秘の数字が入った画面を広げるのも気が引けます。

いちばん困るのは、直せば直すほど、資料全体のつながりが見えなくなることです。1枚の言い回しを変えると、前後のスライドとの言葉がそろわなくなる。図を入れ替えると、話す順番も変えたくなる。気づけば到着のアナウンスが流れ、頭の中は「どこを直したか」でいっぱいのまま会場へ向かうことになります。資料は少し良くなったかもしれませんが、話す準備はむしろ後退しています。
Tylorとしての解決アプローチ——資料は出発前に締め、車内では3つだけ行う
私たちは、出張がある発表では「資料の締め切りは出発の時刻」と決めています。車内では原則として資料を直しません。そのかわり、移動時間を次の3つの区間に分けて使います。

1. 前半——聞き手の席から、資料を一度通して見る
まずは、PDFに書き出した資料か、印刷した紙を、最初から最後まで通して見ます。ここでは編集できるファイルは開きません。見るときは、作り手ではなく初めて聞く人の気持ちでめくるのがコツです。「このスライドで何を言いたいのか、すぐ分かるか」「前の話とつながっているか」だけを確かめます。
気になる箇所が見つかっても、その場では直しません。手帳やメモに「7枚目:結論が下にある」のように一行書き留めるだけにします。本当に直す必要があるかどうかは、落ち着いた場所で判断すればよいからです。実際には、このメモの多くは「話すときに一言添えれば足りること」だと分かります。
2. 中盤——話の流れを、耳で確かめる
車内では声を出して練習できません。そこで私たちは、出発前に一度だけ、スマートフォンのボイスメモで自分の通し練習を録音しておきます。上手に話す必要はなく、スライドを順にめくりながら、話すことをざっと声に出すだけで十分です。
移動中は、その録音をイヤホンで聞きます。自分の声を聞くと、「この説明は長い」「ここで急に話題が変わっている」といった流れのつまずきが、スライドを見ているときよりもはっきり分かります。特に確かめたいのは、スライドとスライドのつなぎの一言です。資料には書かれていないこの一言が、本番で詰まりやすいところだからです。
3. 到着前——資料を閉じて、窓の外を見る
到着の30分ほど前になったら、資料をしまいます。コーヒーを飲んだり、窓の外を眺めたりして、頭を休める時間にあてます。最後まで資料を見ていると、細かな部分ばかりが気になり、話し始めの気持ちが固くなってしまいます。冒頭の一言と、いちばん伝えたいことの二つだけを思い浮かべて、あとは手放します。
そこにある原理原則——「直す」は判断、「通す」は確認。判断は落ち着いた場所で行う
このやり方の背景にあるのは、資料を「直す」ことは判断の仕事で、「通す」ことは確認の仕事だという考え方です。
直すときには、どの言葉を残し、どの図を外すかを決めなければなりません。判断には、全体を見渡せる画面と、まとまった集中力が必要です。揺れや通信の途切れ、周りの目がある車内は、もともと判断に向いた場所ではありません。一方で、通して見る・聞くという確認の仕事は、多少落ち着かない環境でも十分にできます。むしろ、少し距離を置いた場所で眺めるほうが、聞き手に近い目で資料を見られます。

もう一つは、発表の準備には「資料の準備」と「話す人の準備」の二つがある、ということです。移動中に資料を直し続けると、前者のために後者の時間を削ることになります。聞き手に届くのは、スライドの細かな完成度よりも、話す人が流れを分かったうえで落ち着いて話しているかどうかです。出発の時刻で資料を締めるのは、話す人の準備のための時間を確保するためでもあります。当日の道具まわりの備えについては、プレゼン当日の持ち物と事前確認の記事でまとめていますので、あわせてご覧ください。
経営者・担当者への示唆——出張の予定に「出発前の通し練習」を入れておく
出張先での提案や講演は、移動の段取りに意識が向きやすく、資料の締め切りがあいまいになりがちです。会社として出張の予定を組むときは、移動の時刻と一緒に「資料を締める時刻」と「出発前に一度通す30分」も予定に入れておくことをおすすめします。メンバーが出張先で発表する場合も、「車内で仕上げればいい」という前提をやめるだけで、当日の安定感はずいぶん変わります。
また、移動中の作業には情報の扱いという面もあります。車内やカフェで社外秘の資料を広げる機会が多いなら、のぞき見防止のフィルターを用意したり、移動中は画面ではなく紙やPDFで確認するといった決めごとをしておくと安心です。
明日からできることは、とても小さなことです。次の出張の前に、スマートフォンで一度だけ、資料をめくりながら話す声を録音してみてください。そして車内では、それをイヤホンで聞いてみる。資料を一文字も直さなくても、話の流れが驚くほど整理されるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. どうしても移動中に直さなければならない場合は、どうすればよいですか?
A. 直す範囲を「誤字と数字の確認」だけに絞るのがおすすめです。構成や図の入れ替えのような大きな変更は、到着後に落ち着いた場所で行ったほうが、前後のつながりが崩れにくくなります。
Q. 通し練習の録音は、どのくらいの完成度が必要ですか?
A. 完成度はまったく気にしなくて大丈夫です。スライドをめくりながら、話すことをざっと声に出すだけで十分です。目的は話し方を磨くことではなく、話の流れとつなぎの一言を確かめることにあります。
Q. 車内で資料を見るときは、パソコンと紙のどちらがよいですか?
A. 直したくなる気持ちを抑えるには、紙かPDFがおすすめです。編集できるファイルを開くと、つい手を入れてしまいます。紙であれば、隣の席から画面をのぞかれる心配も少なくなります。
Q. 到着前に資料を閉じると、内容を忘れてしまいそうで不安です。
A. 冒頭の一言と、いちばん伝えたいことの二つだけを手元のメモに書いておけば大丈夫です。細部は資料が支えてくれます。直前は覚えることよりも、落ち着いて話し始められる状態をつくることを優先してください。
Tylorでは、数時間お話を伺い、ご本人の言葉で資料を仕上げています。
まずは30分、資料の構成を一緒に整理することから始められます。
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