講演や学会のスライドを作り終えて、通して見返したときに「内容は全部入っているのに、なぜか読みにくい」と感じたことはないでしょうか。文字は読める大きさで、情報も正確です。それでも、会場で映すと伝わっている手応えが薄い。資料づくりのご相談で、私たちTylorがよく伺うお悩みです。
結論からお伝えすると、スライドの読みやすさは文字量・フォント・余白・色の「上限」を先に決めておくことで安定します。この記事では、私たちが資料を仕上げるときに実際に使っている5つの原則を、数字の目安と一緒にご紹介します。センスの話ではなく、決めごとの話です。
「読める」と「伝わる」は違います
手元のパソコンで見るスライドは、画面まで50センチほどの距離で、好きなだけ時間をかけて読めます。けれど会場の聞き手は、数メートルから十数メートル離れた席で、話を聞きながら、1枚あたり1分前後で読み取らなければなりません。
「読める」は、文字が判別できるという意味です。「伝わる」は、限られた時間の中で、何が大事かが分かるという意味です。文字が判別できても、1枚に12行並んでいれば、聞き手は読むことに集中して、話が耳に入らなくなります。
スライドは読み物ではなく、話を支える掲示物です。この前提に立つと、整え方の基準が決めやすくなります。
スライドを「伝わる」に変える5つの原則

原則1:1スライド1メッセージにします
1枚のスライドで伝えることは一つに絞ります。目安は、そのスライドの内容を一文で言えるかどうかです。「このスライドでは〇〇と△△と□□を説明します」となるなら、3枚に分けたほうが伝わります。講演全体で何を伝えるかの決め方は、「持ち帰ってほしい一つ」から構成を逆算する記事でご紹介しています。
原則2:本文は6行まで、文字は24ポイント以上にします
本文は1枚あたり6行までを上限にしています。文字の大きさは、一般的な横長(16:9)のスライドで、本文24ポイント以上、見出し32ポイント以上が目安です。行数が収まらないときに文字を小さくするのではなく、文を削るか、スライドを分けるのが基本です。図や表の中の文字も忘れがちです。本文より極端に小さくならないよう、18ポイントを下回らないようにしています。
原則3:フォントは2種類までにします
使うフォントは、日本語用を1種類、英数字用を1種類の、合わせて2種類までにします。会場で映すスライドには、線の太さが均一で遠くからでも読みやすいゴシック体が向いています。強調したいときは、フォントの種類を増やすのではなく、同じフォントの太さを変えます。
原則4:余白は情報の一部と考えます
余白は「空いている場所」ではなく、どこを見ればよいかを伝える情報です。スライドの上下左右には、何も置かない幅を決めて、全ページでそろえます。文字や写真をスライドの端ぎりぎりまで置かないだけで、落ち着いた印象になります。また、関係の近い要素は近づけ、別の話題とのあいだは広く空けます。余白を埋めたくなったときは、情報が足りないのではなく、整理ができた合図だと考えてください。
原則5:色は3色以内にします
色は、文字の色、強調の色、補助の色(薄いグレーなど)の3色までにします。強調の色は「ここだけは見てほしい」という箇所にだけ使います。1枚の中で強調が3か所を超えると、どこも目立たなくなります。
整える前と後で、スライドはこう変わります
内容を抽象化した自作の例でご説明します。整える前のスライドは、1枚に箇条書きが12行あり、項目ごとに4色で塗り分けられ、貼り付けた文章のフォントも混ざっていました。

整えたあとは、このスライドで言いたいことを見出しに一文で書き、本文は3行にしました。残りの9行は捨てたわけではありません。3行は次のスライドに分け、ほかは口頭で話す内容として発表者用のメモに移しています。聞き手は見出しを読むだけで要点が分かり、あとは話に集中できます。
AIで作ったスライドこそ、この5つで見直します
私たちも、下書きや情報の整理にはAIを使っています。ただ、1枚に情報を詰め込みすぎたり、ページごとに文字の大きさや色づかいが変わったりすることは珍しくありません。そこで、5つの原則をそのまま確認項目として使います。1枚ずつ「一文で言えるか」「6行以内か」「フォントは2種類か」「余白はそろっているか」「色は3色か」を見ていくだけで、仕上がりは安定します。細部がそろわないことで起きる違和感については、講演資料が「AI感」になる理由をまとめた記事でも触れています。
AIは道具です。最後に、話し手ご自身の講演として違和感がないかを確かめるのは、人の仕事だと考えています。
明日できることは一つです。いま作っているスライドの中から、いちばん文字の多い1枚を選んで、行数を数えてみてください。6行を超えていたら、そのスライドで言いたいことを一文で書き、2枚に分けてみてください。
この5つは、私たちTylorが資料をお渡しする前に必ず確認している品質の基準でもあります。特別な技術ではありませんので、ぜひそのままお使いください。
よくある質問
Q. 学会の発表時間が短く、1枚に情報を詰め込まないと収まりません。
A. 時間が短いときほど、1枚の情報を減らすほうが伝わります。スライドの枚数と発表時間は別のものです。1枚を30秒で見せる前提にすれば、分けても時間は延びません。どうしても載せたいデータは、配布資料や予備のスライドに回す方法があります。
Q. おすすめのフォントはありますか?
A. 特定のフォントより、「ゴシック体を1種類に決めて、最後まで変えない」ことのほうが大切です。発表に使うパソコンに標準で入っているフォントを選ぶと、会場で文字の形が変わってしまう心配も減ります。
Q. 文字を24ポイント以上にすると、図や表が入りません。
A. 図や表は、見せたい部分だけを切り出して大きく載せるのがおすすめです。表であれば、注目してほしい行や列だけを残します。全体は配布資料に載せ、スライドでは結論に関わる部分だけを見せると、文字の大きさを保てます。
Q. 余白が多いと、手を抜いたように見えませんか?
A. 余白が均一にそろっていれば、手抜きには見えません。むしろ、何を見ればよいかがはっきりして、丁寧な印象になります。気になる場合は、見出しの一文を具体的にしてみてください。言いたいことが明確なスライドは、余白があっても物足りなく見えません。
Q. 以前作ったスライドがたくさんあります。全部直す必要がありますか?
A. 全部を一度に直す必要はありません。次の講演で使うものから、冒頭の数枚とまとめの1枚だけを5つの原則で見直してみてください。聞き手の印象に残りやすい部分から整えるのが、時間のかからない進め方です。
Tylorでは、先生から数時間お話を伺い、先生の言葉で資料を仕上げています。
まずは30分、資料の構成を一緒に整理することから始められます。
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